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木になる話
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測定器と加工の微妙な蜜月
私たちは木材を加工する過程で様々な機械を使います。そして直角定規(スコヤと言います)、ノギス、斜角定規など様々な測定器も使います。しかし、かつてわたしが木工所で修業していた頃、先輩からそういった測定器を使わない方法をいくつか教えて頂きました。その一例を書きます。
まず、木材を正確な直角の出た角材にするために、手押しがんなで基準面を削ります。この時、正確な直角が出ているかどうかを確かめるのにはどうしますか?

測定器と加工の微妙な蜜月測定器と加工の微妙な蜜月直角定規(スコヤ)を当てて確認するのが普通でしょう。でも、例えばそばにスコヤが無かった時、あるいはだれか他の人が使っている時、どうしますか?
測定器と加工の微妙な蜜月こんなやり方があります。まず2枚の板を重ねて手押しがんなで削ります。
測定器と加工の微妙な蜜月そして片方をぐるっと180度回転させて合わせてみます。すると、正確な直角が出ていればこのようにピタッと2枚はくっつきます。
測定器と加工の微妙な蜜月しかし、直角でない場合はこのように上部に向かって隙間が出来ます。これで直角かどうかがわかります。スコヤを当てて測るやり方よりこのやり方のほうが、理論的にも正確に出来る事はお分かり頂けると思います。
測定器と加工の微妙な蜜月次に角のみ盤で穴をあける時、キリが正確に直角についているかどうかを調べるのにどうしますか?やはりスコヤをあててセットしますか?
測定器と加工の微妙な蜜月しかしスコヤを当てなくてもできるのです。私はまず角のみのキリをセットして、一番奥までずらして真横から覗きます。すると、うっすらとした光で隙間が見えます。この隙間が最大になるように角のみのきりを回して動かします。(微調整です)
測定器と加工の微妙な蜜月そして、実際に穴をあけてみます。直角が出ていなければ穴の壁にはまっすぐな筋が入ります。キリがねじれているので筋の跡がつくのです。
測定器と加工の微妙な蜜月しかし、完全に直角が出てセットされていれば、穴の壁には筋がつきません。
測定器と加工の微妙な蜜月一回一回スコヤを当てて確かめていては、時間がかかって仕方がありません。それに、理論的にもスコヤを当てて確かめるより正確な事はお分かりでしょう。
測定器と加工の微妙な蜜月測定器と加工の微妙な蜜月 次に、昇降盤を使って直角に切る場合、直角になっているかどうかはどのように調べますか? これもいちいちスコヤを当てなくてもできるのです。
測定器と加工の微妙な蜜月角材を1本用意してぐるっと4辺を切ってみるのです。もし、正確に直角に切れていなかったら切り口がずれます。
測定器と加工の微妙な蜜月正確に直角に切れていれば、ピタッと切り口が合います。
又、こんな事もあります。私たち木工の世界は通常0.1mmの誤差で仕事をする世界です。私も目視で0.1mmぐらいまでは読む事が出来ます。視力が命のこの世界でもあります。見えなくなったら引退かなあ…。(金属加工の世界は0.01mmの世界らしいですね。すごい!)

一定の長さに切りたいと思った時、「あと0.2mm短くしよう」とか「あと0.1mm短くしよう」などという場合が出てきます。そういう場合、定規などを使ってできるものではありません。勘の世界ですから、機械の上についている微細な傷を目印にしたり、機械の上に乗っている埃を目印にしたりして微調整して切ります。

測定器と加工の微妙な蜜月あるいはテープを一枚貼ったり、逆に一枚分はがしたりして微調整もします。ガムテープの厚みが大体0.5mm、マスキングテープの厚みが大体0.2mm、コピー用紙の厚みはどれぐらい…などと覚えておけば、適当なものを挟んで微調整が出来るのです。
さて、いろいろ書いてきましたが、なぜこんな事を書いたかというと技術論を述べるためではありません。私が言いたいのは、「安易に測定器などに頼らない。身の回りにあるものを活用して、工夫して加工をしていく」という事なのです。

それに我々の世界は、実は基本的に「現場合わせ」の世界です。いくら図面での計算上「1560mm」となっていても、実際は現場合わせで「1560.2mm」になっているかもしれません。定規や図面上の数字は意味がありません。測定器や定規を捨てる事が正確な加工に結びつくと言っても過言ではありません。

我々の世界は大量生産ではなく、一品物あるいは少量生産の世界ですから、スピード第一ではないのでいちいち時間をかけて測定器を用いて加工を進めるのもいいでしょう。でも実はそんなやり方よりも、もっと理論的に正確で優れたやり方を過去の人たちが生み出してきたのです。そういう知恵が大事なことなんだと思います。木工の世界は日々工夫の世界です。